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[掛けた言葉が終わらぬうちに緋の鬼が歩み出るのを見て、]
[暢気に手を叩く。]
ほほ。面白うなってきた。良い酒肴だ。
[にやり嗤って酒をまた。]
は………んっ。
[頬の血を舐めとられ、潤んだ視線を喰児へと。]
あらあら、ではわたくしも加勢致しましょうか。
わたくしに石の飛礫を投げたのはどなた?
ああ……貴方様ですか。
[カラコロと歩み寄り、飛礫を持った妖しの身体をそっと抱く。己の掌をゆるりと胸から腹へ、そして相手の膨らむ場所へと滑らせる。]
嗚呼……いやだ、いやだ。
[紅の唇を、飛礫を持った妖しの唇に重ねる。くちゅくちゅと唾液を吸い取り、嫌がる舌を絡ませ転がす。唾液で溶けた紅を舌で押し込むと、唇を放し、耳元で囁く。]
嗚呼、貴方……
『愛しております』
[次の瞬間、遥月の目の前に居た妖しは、ずぶずぶと黒く腐り落ちた。]
……味はいまいち、といった所ですねぇ。
[ぺろりとひとつ、舌舐めずり。]
さて有塵様。
……わたくし達、いよいよもって憎まれてしまいましたねぇ。如何なさいます?
このまま蹴散らすも良し、喰児様に殲滅をお任せするも良し。
御酒の肴をご所望で?
[白面の若衆の手管の一部始終を眺めていたが]
[流石に酒を呑む手を止める。]
……なるほど。それがおまえの技か。
契り得ぬか。
[黒く崩れて原形を留めぬ怪の残骸に目を落とし、]
[それでも変わらぬ夢幻の眸。]
[瓢を掲げて残った酒を揺らし、]
言ったろう、おれは面倒臭い。
喰児に任せて高見の見物と洒落込むよ。
桜の上にて酒盛り…。
おまえも来るか?
[朧な笑い。]
ええ、有塵様。
誰とも決して契り得ぬ、難儀な身体でございますでしょう?
[紬の袖ごしに、くつくつと笑う。]
いいえ有塵様、たまにはわたくしも舞いましょうぞ。せっかくの紅をこのような無粋な方々に使うのは心踊りませぬが、目には目を、歯には歯を……致し方ありますまい。
有塵様。お気が変わりましたら、いつでもご加勢下さいませね……
[風呂敷包みをヒラリ解き、取り出だすは毒紅の器。風に吹かれて、閉じ込められた桜の花びらは、ヒラリハラリと主の元へ。]
嗚呼……いやだ。
わたくしの毒針が、このような無粋な方々相手にも疼くだなんて……。
[紅の蓋を開け、白い指先に惜しげもなくべとりとつける。唇に紅を乗せ、動かし紅をゆっくり延ばし拡げる。紅を乗せた遥月は、ぐるりと周囲を見回した。]
嗚呼、皆々様。
覚悟は、よろしゅう御座いますか?
[其の紅色の唇はひきつれるように歪んだ――*]
[淡絞り] [白の浴衣] [数多浮かぶ] [赤黒の華]
[片袂] [赤黒に染まり] [一層深いは] [墨の残りか]
白水の姐さん、半刻程泉を貸してお呉れヨゥ。
[白の少女] [見えぬ木の裏] [声かけ] [気配消える]
[剥き出しの白い肩] [かかる常盤色] [滑る水] [清ら]
もゥ好いかえ?
[泳ぐ夫婦金魚] [隻眼の碧] [追いかけ] [弧を描く]
[白い手伸べ] [パシャリ] [水面叩き] [コロコロ笑う]
未だだヨゥ、もう少しさァ。
[赤黒の華咲く] [白の浴衣] [羽織り] [帯締め]
[常盤結い上げ] [紅引き] [映る面] [窪んだ隻眼]
[殺気立った気配] [取り囲まれ] [薔薇色の唇] [吊り上がる]
おや、遊んでお呉れかえ?
生憎と兄さん達じゃ咲き乱れるにゃ足りないヨゥ。
嗚呼、でも紅い血が見たいネェ。
[コロコロコロリ] [笑う声は軽やか] [合図になるか] [地を蹴る異形]
ほゥら、捕まえてご覧ヨゥ。
[ひゅうい] [振った白の手] [見えぬ糸] [木の幹にかけ]
[高く高く跳ね] [赤黒の袂] [はためかせ] [木から木へ]
こっち、こっち、此処だヨゥ。
[ひらりひらり] [飛び回り] [飛礫も刃も] [かわすばかり]
[不意に] [何が起こったのか] [一匹の異形] [腕が飛ぶ]
[辺り見回す] [異形達眺め] [幹に腰掛け] [コロコロコロリ]
捕まえたヨゥ。
[赤黒の袂] [煙管取り出し] [薔薇色の唇] [咥える]
[火打石を打つ間] [いきり立つ異形] [眺めて] [ニィと笑み]
下手に動くと危ないネェ。
[煙管持つ白の手] [ひらり] [舞う様に返し] [紫煙吐く]
[ごとり] [転がる異形の首] [見えぬ糸] [張り巡らされた巣]
もう遅いさァ。
[顔色を変え] [背を向ける異形達] [ひらり] [返す白の手]
[断末魔も無く] [転がる肉片] [広がる血溜り] [響く軽やかな笑い]
[はたり] [揺れる] [苺色の鼻緒] [白の足] [片膝立て]
[ゆるり一服] [仄か薫る桜] [白粉] [咽帰る程の紅の香]
嗚呼、良い、好いネェ。
[太腿に覗く蝶] [隻眼の碧] [濡れて] [広がる紅見下ろし]
[くゆらす煙管] [吊り上がる薔薇色] [眇める隻眼] [落ち窪んだ隻眼]
[カァン] [幹叩く煙管の音] [肺に残る煙吐き] [地に降りる]
さァて、旨い奴ァ居るかネェ。
[血溜り眺め] [伸ばす白の手] [ぶちり] [掴み出すは心の臓]
[てらてら] [紅い其れは] [まるで林檎飴の如く] [妖しく光り]
未だ温かいヨゥ。
[うっとり囁き] [薔薇色の唇寄せ] [一口齧り] [染まる口許]
[紅より紅く] [濡れた唇] [ちろりと舐め] [浮かべる三日月の笑み]
[一口齧り] [投げ捨て] [べちゃり] [潰れる紅]
[濡れた五指] [丁寧に舐め] [染まる口許] [指先で拭い]
未だ未だ足りないヨゥ。
束ンなってかかって来る様な奴等じゃお話にならないネェ。
[ざわり] [ざわ] [ざわ] [蠢く衝動]
[じくり] [じく] [じく] [痛む隻眼] [ぽかり] [闇]
誰に遊んで貰おうかィ。
夜斗は誰と遊ぶンかネェ。
[呟き] [下駄の音] [カラコロカラリ] [何処へと]
そう言や茄子の兄さんは一人で戻ったが司棋の兄さんは無事かネェ。
遥月の兄さん辺りに見つかってなきゃ*良いけどさァ。*
―回想―
[宴のあと。ざわめきを抜け出して独りくらい林の中へ。
取り出したるは、掌におさまる程の珠―――。]
[夜明けの一瞬。空がひととき茜に染まる。
茜を映した珠は きろり きろり と光を含み
茜と蒼とをいったり きたり]
彼の者がヒトか否か、我に告げよ。
名は――――遥月――――…。
[きろり きろり
目玉のように色を変え。夜明けの茜が消えると澄んだ蒼に落ち着いた]
[澄んだ蒼に落ち着いた珠見つめ、ふうと一息]
…彼の者はヒトにあらず…か。
[珠を懐深くしまい込み、夜が空け切った空を見上げた。
纏いかけた黒の霧を振り払うように踵返し
ふぅわり
狩らんコロ カランコロ カラン殺...
下駄の音響かせどこぞへと]
―今朝方の出来事―
―夕闇迫る現在―
[今朝方よりすっかりしんとなった出店界隈。
注意深く歩を進めていれば、石畳に血痕赤黒く]
人死にか?
『へえ、なんでも林檎飴屋の……が、酷くやられたそうで…』
詳しく知っている者は。
[眼光鋭く言及すると、相手は首振り、手振りそそくさと行ってしまう。眉をしかめて、下駄の歯を血痕に押しあて
がり、り
見つめても状況判らずじまい。
興が削がれたかふらり来た道を戻る]
せっかくだから、異国人 マンジロー は 流れ者 ギルバート に投票するぜ!
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