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[ゆらゆらと紅差した若衆の、艶めく白面を見遣りて]
そう言うて、おまえも存外好きそうだ。
のう…?
貪りとうて堪らぬ気色が見ゆる。
[薄く色づく笑みを浮かべる。]
[ほんのりと紅差す闇桜の男へと、くすりと笑って首を傾げた。]
ふふふ……さあ、如何でしょうねぇ……。わたくしは血肉は欲しませぬが。
しかしヒトも妖しも『生』を求むる時の『精』が最も甘美な味がします故、殺して食らえと言うのなら、喜んでその『精』を戴きましょう……。
おれは……面倒臭い。
どうせ散る桜の命に憂き世の塵は無縁……
と言いたいところだが。
散るを待てぬは無粋の極み。せめて春の終わりまでは。
日が高いうちは駄目ってか。
夜になったら降らせてやろうかい?
同じ名の月も紅く染まるだろうなあ。
[血潮と同じ色した髪が櫻の風に弄られる]
咲いた櫻が散るまでは
有塵もこの喧騒無視できねぇだろう。
綺麗な花が咲きそうだ。
[顎に手を当てくつくつ笑う]
[有塵の言葉に、コクリと頷いた。]
ええ、ええ。
殺すと言って死ぬと言う方はまず居りますまい。
だからこその、命を掛けた『鬼ごっこ』……。
愉しいか否か、感じる暇は無さそうですねぇ……。
[喰児を見ながら、ふぅと溜息。]
嗚呼、喰児様。
わたくしを紅く染めるのは、わたくしの血ではなく、貴方様の熱でお願い致しますね。
[屈託の無い笑み。子どもの様にニコリ。]
ふん…さして惜しい命でもない。
もうあまり時が……
[と、そこから先は言葉にせず。]
ただ、咲いた桜を半ばで散らす、無粋は手向かうだけのこと。
彼のおとことの契りの時が過ぎるまで。
ええ。その通りですよ喰児様。
[屈託の無い笑顔のまま、喰児の腰へと掌を。]
貴方様が欲しないならば話は別ですが。嗚呼、呉れ呉れも、常盤様にはご内密にお願い致しますね?
[瓢からまた一啜り、]
[これ見よがしに墨染めの衣の襟をはたいて扇ぐ真似。]
[いや、薄紅に染まる胸を見れば、本当に熱くなっているのだろうが、]
おお、おお。暑い暑い。見せ付けてくれるな。
常磐の女君には見せられぬ。
[途切れた言葉のその先を 追うかのように眼を細め]
櫻、櫻霞か雲か、ってな。
散るからこその花だが、
お前が逝ったら櫻が見られなくなっちまわあ。
そりゃあ困るねぇ。
[ひらひら櫻の花びら踊り金の瞳のその奥に宿る色は何色か]
誘うか、俺を。
喰っちまいかねねぇぞぉ?
[笑いを浮かべてそのままに紅の瞳を覗き込み]
さもなきゃ俺が碧に喰われるかねえ。
碧は喰う専門だと謂うがなあ。
[ちゃぷり][湧き出る泉の力]
[両の腕(かいな)に抱きつつ]
人型のままというのも、難儀じゃな――。
[背後の気配]
[飛礫は頬を掠めて瞳と同じ緋色をひくか]
汝れは狩る者におびえているのか。
[泉の水を一掬い][腕を一振り雫は散りて]
[聞こゆる悲鳴は霧で隠して薄い笑み――]
[女にとっては水掛遊び][男にとっては鉛の銃弾]
石の飛礫よりも痛かろう。
――見逃してやるから去ね。
[泉は色濃く霧を宿すがややもすれば霧は晴れ]
[頬を一撫で、染まる緋に眉を顰めて衣を脱ぐ]
やれやれ、また浴び直しか――。
[返り血がいくらか咲いた衣を岸に]
[ちゃぷり][沈むは*水底に――*]
ふふっ……
有塵様は存外にうぶですねぇ……嗚呼、可愛らしい。このようなことで頬が赤う御座いますよ?
それとも、御酒のせいですか?
いずれにせよ、酔った有塵様は可愛らしいですねぇ……。ふふっ……。
[談笑する人妖たちに焦れたのか、油断と思うたか、]
[囲みの端から石礫、]
[ゆぅらり揺れる墨染めの、舞い散る桜に触れたと思えば、]
『ぎゃっ──!』
[逆巻く花風に礫を撥ね返されて、目の玉押さえて転げまわる怪一つ。]
……無粋は好かぬ、と言うた。
[目を半眼にとろんと潤ませ、ぼそり、呟く。]
[喰児に絡まり、吐息を掛ける。其の刹那――]
嗚呼、いやだ。
どこからか石の飛礫が。
無粋な方も居られますねぇ。
[遥月の頬に、うっすらと血の紅色。]
わたくしは、血が嫌いだと申しましたでしょう……?
[悲鳴聞こえて視線をやれば]
ははあ、やつら懲りてねぇみたいだなあ。
墨染めの櫻も見た目に反して怖ぇ怖ぇ。
綺麗なものほど危ないねぇ。
[飛んだ礫を払い除け
白い頬に流れる血を舌でぬらりと舐め取った]
さぁて、甘いお誘いは嬉しいが、
ちぃとやつらの体に覚えこませなきゃならねぇ事があるみてぇだなあ。
[ひらひら手を振り歩み出て、
*おいたのアヤカシねめつけた*]
[次々と飛び来る礫を花弁含んだ竜巻で防ぐが、]
[酔いに赤らんだ顔にはありありと嫌気の差した表情が浮かぶ。]
面倒臭い。
喰児、何なら見せてやれ。おまえの力。
少々痛めつけられれば、格の違いが分かるだろう。
[と、遥月の声音に気付き、]
……こちらの方が先に来た、か。
[くく、と嗤う。]
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